作者は僕より一回り年上だ。変化の激しい時代の一回りは大きいし、彼の育った遠別よりはいくらか街らしいところで育った僕の体験はきっとかなり違ったものなのだろうけど、この本に書いてある景色や空気はとても懐かしかった。
普通に呼吸するのすら困難さを伴う厳冬の空気や、草いきれなんて言葉じゃ生ぬるく感じるほどの豊かな草原で草を掻き分けて歩いたこと、山奥の自分の家から自転車でやってきた祖父のこと。いろいろなことを思い出した。
一番最後の、作者の父のシベリア抑留の時の話では、ごく身近な親戚が樺太から引き上げてきたときの話や、学生の頃アルバイトしていた先の近所の食堂のおやじさんがあっけらかんと語った刀が切れなくなる話(人の脂でということで、彼は実際に斬った体験を話していた。僕の育った街は軍都といわれていたのだ。)を思い出した。
この本の世界と自分の少年時代の体験が似ていることは、なんだか自分がずいぶん歳をとったということを感じさせた。たぶん会社で机を並べて仕事をしている若い連中にはまったく縁のない話だろうなと思ったからだ。
この本を読んで、いいなと感じるのは限られた年代だろう。だけど、自然と人間の厳しさをしみじみと語る年老いた父とか祖父を思い浮かべながら読むというのもいいのではないか。そこに煙突から吹雪の風に吸引されて真っ赤にゴーゴーと音をたてて燃えるストーブの面影を思い浮かべてほしい。
といっても住む場所も世代も違う人たちにはなんのことかわからないかもしれないけれども。
[いいですね]
んちばさん、この本のレビューいいですね!
ちょっとぞくぞくしちゃいました。
シベリア抑留や戦争中の話は私も祖父母から話を聞いたことがあるくらいで
そんなことがあったんだなあとは思いますが、実感というところまではなかなか。
北海道というと、広大な土地や雪や美しい景色のイメージばかりが浮かぶのですが、
樺太や軍都という言葉を聞くと、あー、んちばさんはほんとに北海道で生まれて北海道で育ったのだな、とじみじみ感じてしまいました。
このレビューだけで、数十年前の北海道という地の風景がせまってくる感じがしました。その土地に住んでいる方の言葉というのは、重みが違いますね。
昔の北海道の姿が、この本の中では語られているのでしょうか。
とても興味を持ちました。
投稿情報: えび | 2008/01/10 00:20
[いいですね] 道産子で北海道大好きなぼくは、この本読んでみたくなりました。
ヨメも昔遠別に住んでたことがあるし、とあるあばあちゃんから樺太引き揚げの話も聞いたことがあるし。
本が届いたら真っ赤に燃えるストーブの中をデレキでいじる様子を思い出しながら読もうと思います。
投稿情報: くまきち | 2008/01/10 01:30
えびさん、ありがとうございます。
この本の最初に、作者が子供の頃の体験を話すと聞いた人にロシアかどこかの話みたいだと言われるということが書かれていました。僕も似たような体験を持っていて、それがとても身近に感じました。
数十年前の北海道の暮らしを感じられる本ですが、その一部は今でも変わらないところがあると思います。景色の美しさの影にある厳しさの対比と、そこに投影される生と死を、ごく自然なものとして素直にとらえる少年の目になって感じていただけるのではないかと思いますよ。
投稿情報: んちば | 2008/01/10 14:08
居間のまんなかにでんと据えられたストーブをイメージすると、薪や石炭の燃える匂いとかストーブに当たっている側がやたらと熱くなることなんかを思い出せるのではないかと思います。あの感じがリアルによみがえってくる本でした。
道北を舞台にした小説では、佐野良二さんの作品がなかなかよいですよ。いくつかの作品を青空文庫で公開されています。(感想をメールで送ったことがあって、それが今でも佐野さんのサイトの「読者の声」のページに載っていたりします。)
地元が舞台の作品を読むのは独特の味があっていいなあと思いますね。
投稿情報: んちば | 2008/01/10 14:23