去年の初夏のこと。図書館で数学の書架を眺めていて、ふと和算の本に目が入った。
「算額」という江戸時代の数学者が自分の考え出した複雑な問題とその解き方を描いた絵馬を寺社に奉納したものをいろいろ紹介したものであったり、「ねずみ算」のような和算とは意識せずに誰でも知っているような問題から方程式の解法とか微分・積分などを漢数字と表や図を使って探求していく方法を説明したものであったりして、まず数式が出てくる現代の数学と違ってパズル的な要素が強く、江戸時代の人々はそれらを一種の「遊び」として探求していたことに興味を覚えた。
おもしろいと思うと同時に頭の片隅にふと浮かんだものがあった。
「いつだったか、和算が好きな変わった女の子が出てくる小説を読んだことがあったけど、あれはなんだったっけ?」
というものだった。
図書館ではそれらしきものは見つけられなかったので、家でインターネットで探してみたが、探し方が悪かったのか見つけられず、それで一旦忘れてしまっていた。
昨日、天気がいいので電車で出かけ、天気がいいというのに書店に入って新刊書を眺め、文庫と新書のコーナーをぶらぶらしてからコンピュータ関係の技術書を物色し、自然科学の棚のおもしろそうな本をたどって数学の棚に行ってみたら、「算法少女」という本が目に入った。
忘れていた疑問を思い出して、ひょっとしてこれが答えかもしれないと思って冒頭を読み出したら、あたりだった。
「算法少女」は江戸時代に書かれた同名の和算書に触発されて著者が創作した少年少女向けの小説で、主人公が数学の研究を通じて知的に開かれた時代を感じ、そのために教育者となっていく話であった。
この本に関する情報が少なかったのには理由があって、1973年に出版された本が10年あまりで品切れとなり、やっと2006年にちくま学芸文庫で復刊されるまでは書店で目にすることがない本だったのだ。
たぶん僕は前の本が出ていた頃にどこかでこの本を読んだのだと思う。
ただ、小説の結末には記憶がなく、ひょっとすると途中までしか読んでいないのではないかと思うのだが、算木で問題を解く江戸の町娘のイメージがなぜか印象に残っていて、それがこの本の表紙の絵なのだった。
長い間頭の片隅にあった疑問がすっきりと解消するのはめったにない快感である。うれしくなって夢中で読んで2時間ほどで読み終わってしまった。
やっぱり本はいい。
きっと天気がいいといいながら書店や図書館に行ってしまう癖は治らないにちがいない。
算法少女 (ちくま学芸文庫)
遠藤 寛子
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[いいですね] 和算、全然知らないのですが、面白そうですね!
ねずみ算は聞いた事ありますが、この記事読んでむくむく気になってきてしまいました。
算数はからっきしダメなのですが、和算の知識がなくても楽しめそうな内容ですね。
江戸時代の女の子が活躍する話、というのも良さそうです!
近所の本屋さんにあるでしょうか。
今日はちょっと風が強いですが、でかけてみますー。
本屋さんって、虫にとっての夜中の蛍光灯みたいです。つい、ふらふらと…。
投稿情報: えび | 2008/05/18 14:21
和算の難しい話は出てこないので読みやすいです。
和算は具象で展開するところが現代の抽象性の高い数学とは違う所なのだと思います。
ねずみ算も、数式で書いたらどうってことないし、つまらないと思うんですけど、ねずみが子供を生んで。。。という物語のようになっているととてもわかりやすいし楽しい感じがしますよね。
江戸時代の人はそうやって難しい数学を遊んでいたみたいです。すごいですよね(^^)。
投稿情報: んちば | 2008/05/18 21:01