青函トンネルの建設をテーマにしたドキュメント・ノベル。昭和62年の本で、このときはまだ青函トンネルは開通していなかった。
僕は青函連絡船の最後の世代だ。何度か東京へ列車と連絡船で行ったことがある。しかしすぐに飛行機での移動に変わってしまったし、あまり東北地方に用がないので実は青函トンネルを通り抜けたことはたった一往復しかない。通り抜けたのはそれだけだが北海道側の吉岡海底駅は2度見学したことがある。駅の近くは作業坑が複雑につながっていて方角がまったくわからなくなることと、上も下もはるか彼方まで延々と階段が続いて終わりがまったく見えない斜坑が印象的だった。
北海道に生まれ育った者としては本州と北海道が地続きになるというのは印象的な出来事だった。だから映画「海峡」をはじめ青函トンネルにまつわるドキュメンタリーや物語はいくつも見た。この本も古書店で見かけてすぐに買ってしまったのだ。
この本は実際に青函トンネルの建設に携わった人々や建設記録をもとにした小説だ。主人公とその周辺の人々は架空の人物だが、トンネル掘削のエピソードは実際に起きたことを中心にしている。青函トンネルの圧巻はやはり先進導坑の掘削で、この本も先進導坑の貫通までだ。
この後も瀬戸内海での巨大架橋とか地図に残る巨大工事はいくつかあったけれど、苦闘しながらの土木工事の時代は昭和のうちに終わってしまったのだなあと思った。こういうドキュメントをみると巨大工事に限らずこの時代の人たちは夢を持って仕事に打ち込んでいたように見える。この時代の人たちはなかなか幸せだったのだなあとちょっとうらやましく思ったりするのである。
青函トンネル
秋永 芳郎
講談社 1987-10
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