僕は数学が苦手だった。
数学が好きな人は、よく答えがはっきりと出るからだという。あるレベル以降の数学は必ずしもそうではないと思うのだが、論理的な明快さという点ではそのとおりであろう。
僕はきっちり割り切れるというのはあまり好きではない。出た答えを重視する普通の学校の数学教育とは相容れないものがあったのだと思う。そういう数学が嫌いだった。
数学を苦手としながらも、数学で扱う概念的なものには興味が尽きなかった。計算は嫌いだが、不思議な数字とかいろいろな定理なんかは意外と好きなのである。学校でそういう側面をもっと教わっていたら数学が好きになっていたかもしれない。
概念的な背景を理解せずに丸暗記するということがとても苦手なので、公式をいきなり暗記させるようなタイプの教授法には合わなかった。暗記したことを前提に進められる授業にはついていけず、ますます数学が苦手になった。
数学の世界では現実の世界の役に立つ概念はあまり高尚なものではないらしい。しかし僕は現実の世界との重ねあわせで概念を理解しようとしていた。現実の世界を理解するために使う数学を知りたかった。
コンピュータを身近に使える時代になって、変数を用いる数式に実際に数字を当てはめてその変化を調べることがとてもやりやすくなった。Excelを使えば簡単にグラフが描けてしまう。これを使えば学校で習う数学の大半はもっと理解しやすくなるのではないかと思った。そして、現実の世界から大量に取り出される数値の意味を理解するための数学の使い方というのを最近になって学び始めて、数学を身近に感じるようになった。
大量の数値を解析するためのさまざまな手法をかじるようになって、基礎的な数学を学びなおそうという気持ちが生まれてきた。きちんと数学を理解すれば、もっと早く現実の世界でおきていることを解釈できるようになるかもしれないと思ったのだ。この歳になって初めて数学が使える学問だと思えるようになったわけだ。
そういう目で書店の書架をながめていて見つけたのがこの本。数の種類から割り算の意味、関数、指数・対数、集合、微分・積分、行列、統計分析まで。現実の世界の数値群を理解するための基礎的な数学が網羅されている。
これはほとんど最初の一歩。先には面白い定理や公式がたくさん待っている。学ぶというのはとても楽しいことなのだと改めて思った。
[this is good] 高校の数学の授業で、微分積分を扱う最後の時間の一番最後に先生が、物理の位置エネルギーの公式と運動エネルギーの公式がそれぞれ微分積分の関係になっていることを教えてくれました。(たぶん合ってると思うんですが)
それを聞いて僕は目からうろこが落ちるとはこのことだ、と思うほど、ボロボロと目からうろこが落ちるのを感じました。
物理の公式というのは、間違っているかもしれないけれど、たくさんの実験データを元に解明される式なんだろうと思っていて、それがまったく違う数学という分野の、なんだかわけのわからない微分積分という分野と完全にくっついてしまうものなんだと知って、ものすごい衝撃でした。
そういう大事なことはもっと早く言って欲しい、とか思いましたが、大学受験で大変な時期だったので、ただただたくさんの問題を解いて「問題を解く」というスキルをアップすることにまい進せざるを得なかったので、気にはなったけれど忘れ去ることになりました。
あの時、僕の状況が少し違ったものだったら、僕はその世界へ突き進んでいたかもしれないなぁと思うことがあります。
投稿情報: H & A | 2006/12/10 12:22
やっぱり物理との関連は鮮烈ですよね。
僕は昔クルマ関係のとあるソフトウエアの開発企画をたてていた時に、車速センサの出力を時間で積分すると走行距離が出るといわれて目からウロコでした。頭の中に出力間隔時間を幅、速度を高さとする帯が延々と並んだグラフのイメージが浮かんで、直感的にそれらを積み上げれば走った距離になるよなあと思ったんです。ほとんど悟入。
こういうたくさんの変化するデータを繰り返し足すというような処理はコンピュータの処理では日常的にやっているわけだけれど、それがほとんど積分の処理だという風には考えたことがなくて、数式のせいで難解に感じていた積分が突然身近に感じたものでした。積分の概念はわかってはいても、日ごろやっていることは結びつかなかったんですね。ちょっと考えれば当たり前のことなんですが。
こんな風に数学を学んでいたら、現実の世界のデータに数式を適用してなにか新しい便利なものが生まれる可能性を知っていたら、もっと楽しかっただろうなあと思いますね。
投稿情報: んちば | 2006/12/10 15:46