初めて椎名誠の文章を読んでからたぶん25年以上経っている。最初に読んだのは旅雑誌で、時刻表完全読破みたいな記事だったと思う。なんだか面白い文章を書く人だなあと思っただけだったが、後に社会人になって東京に住んでいたときに電車の中の読み物として文庫を次々と読むようになった。
その中では「パタゴニア―あるいは風とタンポポの物語り (集英社文庫)」という作品がとても好きで、これを読んでパタゴニアの印象が脳裏に焼きついた。
ここ数年の椎名誠は、歳のせいか落ち着きのある文章になっていて、昔の勢いがなくなったような気がしてしばらく読まなかったのだが、書店でこの本をみつけて、パタゴニアという文字に引かれて買ってみた。
もちろんパタゴニアに行った話は魅力的なのだが、この本で一番印象的だったのはチベットだった。
パタゴニアにしてもアマゾンにしても、僕達の暮らしとはかなりかけ離れた世界なのは間違いないのだが、どちらもそこに住む人々の心持ちみたいなものがなんとなく想像できるというか、あまり僕達と違わないのではないかと思えるところがある。しかしチベットの人々の気持ちはなんだか想像がつかなかった。もちろん僕自身の体験ではなくて、椎名誠の体験を本で読んでいるわけだから、たぶんこれは椎名誠が感じたことなのだろう。
何ヶ月とか何年とかかけて聖地に巡礼する人々とか、日本で言えばかなりの田舎だと思えるような街でもそこが毎日お祭りのような世界だと感じて金を使い果たして郷里に帰ることもできずにブラブラしている人のことが書かれている部分を読んで、果たしてこれが本当に同じ地球に住む人々なのだろうかと思ったりした。
100年以上も前と変わらない暮らしを続けているのを知ってみると、僕達の暮らしが彼らよりも幸せだとは言い切れないのだなと思った。
そういう世界を自分の目線で淡々と綴っていくのが椎名誠の醍醐味だったな、と思い出させてくれた一冊だった。
真昼の星―熱中大陸紀行 パタゴニアアマゾンチベット (小学館文庫 し 2-4)
椎名 誠
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