芥川龍之介の作品は、断片的にいくつか読んでいる。たぶんそういう人は多いだろう。
この文庫の中のいくつかの作品、僕も何度か読んだことのあるものだった。久しぶりに読み返すものもあってなかなか面白かった。
なぜいまさら芥川を読んでみようと思ったかといえば、なんということはない、この集英社文庫の新しいカバーがとても気に入ったからだ。小畑健の絵がなんとなく読んでみようという気にさせたわけだ。
書店でも目立つところにおいてあって、実際によく売れているようだ。この絵から文学の世界に足を踏み入れる人も少なくないのだろう。
収録作品で特に好きなのは「秋」、「藪の中」、「トロッコ」の三篇。
「トロッコ」を初めて読んだのはたぶん国語の教科書だったと思う。思いもよらない遠くから帰ってくるときの不安な感じとか帰り着いたときに泣きじゃくる気持ちみたいなものは今でも感じることがある。その感覚がどこか郷愁のようなものを誘うようで、僕は出かけるのが好きなのだと思う。
「秋」は思うようになるとは限らない現実が姉妹の微妙な心理に投影されていて印象的。
「藪の中」は人によって見方がすれ違うこと。。。人の気持ちは本当にはわからないのだという感覚が技巧的に表現されていて興味深い。
巻末に北方謙三が「鑑賞」を書いている。その中で「舞踏会」「秋」が三島由紀夫的と書いている。僕も読みながらそう思っていた。でも「羅生門」「芋粥」「地獄変」「鼻」「蜘蛛の糸」はぜんぜん違う。「奉教人の死」のようなちょっと毛色の違うものもある。
いまさらながら芥川は面白いのだなと思った。
地獄変 (集英社文庫) (集英社文庫)
芥川 龍之介
by G-Tools
最近のコメント