伊藤洋一さんは、Podcastを聴き始めてからのファンで、今までに何冊かの著書を読んでいる。この本のタイトルはなかなか思い切ったものでおもしろそうだと思っていたのだが、なかなか買う機会がこなかった。お小遣いももらう身分では読みたい本をかたっぱしから買うというわけにもいかなかったのだ(^^;
で、文庫化を期に購入して読んでみた。
文庫になったくらいだから、最初の出版からは時間が経っていて、少々情報が古くなったところもあるにはあるのだが、数十年先のスパンで日本の競争力について考えている本だから、今でも内容に違和感はない。
日本人は悲観論がやたらと好きというのはなるほどと思った。楽観論を見ると不安になるが、悲観論を見ると安心するというわけのわからない気持ちが僕の中にもあるような気がする。一旦そういうことを認めた上で日本の現状を見ると、先行き真っ暗論ばかりのマスコミの報道は要するにバラエティの範疇にあるということがわかってくる。
この本に書かれていることはこんな感じである。
相対的な国際競争力というのは変化するものだ。中国やインドがどんどん追い上げてくるのは当たり前のことだが、だからといって日本が滅ぶわけではない。そもそも競争力で「負ける」という感覚は戦後日本の成功体験からくる不安感であって、日本が持っている潜在力はそう簡単に他の国の追従を許すものではない。そもそもモノ作り日本の伝統は実はとても長い歴史を経て、教育や風俗・文化などの奥行きがあって成立しているから、単純に工業技術を導入すれば同じようなことができるようになるというわけではない。そんなに怖れることはない。
さらに、
日本は不況で大変だというのを聞きつけて取材に来てみた外国のメディアがどこが不況なのかわからず、政治家がバカみたいなことをやっていてもなぜかそれなりに世の中が治まっており、自分たちは引っ込み思案で文化を伝えるのが下手だと思っているのに外国には日本文化がcoolだという人が増えている不思議の国だ。悲観論は油断せずに向上心を保つという面もあるが、あまりにもどっぷり浸かっていると体力を失ってしまう。ちょっと自分たちを見直してみたら?
と著者は悲観論を心配している。
今の日本には問題がたくさんある。だけど自信をなくすことはない。ということなのだ。
でも、実は悲観論については心配いらないのではないかと僕は思う。
よく考えると、日本人は会社帰りに会社や上司のダメさ加減を肴に酒を飲むのが好きなだけで、別に自信をなくしているわけではないのだ。ダメだというのもエンターテインメント。だからマスコミは悲観論をエンターテインメントとして売って、誰もがそれを楽しんでいる。そういうひねくれたおもしろさ追求するおもしろさに世界中が気づきはじめたから、日本はcoolと言われるのかもしれないのだな。
実は世界中が悲観論を楽しむようになったら、世界的な平和が訪れたということかもしれない。なぜなら、本当に大変なところでは悲観論を楽しむなんてできないわけだから。
そういう意味でアル・ゴアは希代のエンターテイナーなのかもしれない。なんてことも考えてしまった。
まあ、そんなことを考えつつも、僕自身はやっぱりこの本を読んで元気な気分になったような気がするし、それよりもなによりも伊藤さんが現地で感じた中国の姿や経済的な数値から今の中国についての見方をすこし冷静な方向に変えることができた。最近のいろいろな問題から中国を脅威と思っている人にも是非読んでみてほしいと思う。
日本力 アジアを引っぱる経済・欧米が憧れる文化! (講談社+アルファ文庫 G 170-1)
伊藤 洋一
by G-Tools
最近のコメント