ついこの間読み終えた「深川黄表紙掛取り帖」の続編。
深川黄表紙掛取り帖がどちらかというとミステリーっぽい色を持っているのに対して、こちらは山本一力らしく良い人ばかりが出てくる成功譚かな。
土佐の酒を江戸に運んで売るという大仕事を成し遂げる話だ。
柳沢吉保とか紀伊国屋文左衛門が出てきて、さらには土佐藩の公務ってことで江戸から土佐まで旅をするなんて調子のいい話ではあるんだけど、そこは山本一力らしく人情味あふれるエピソードが沢山はいったなかなかよい話だ。
残念なのは後半がバタバタしていかにも書ききれていないこと。大人の事情も多いのだろうが前半並にもっと書き込んで欲しい感じがする。まあ、きっちり書きすぎていないところが想像の余地を残していていいということもあるにはあるのだが。
それから、この人のクセでちょっと問題があるなとおもったことがある。「正味で」という表現だ。話の中で初対面の相手を簡単に信頼してしまうくだりがいくつも出てくるのだが、そういう場合によく使われるのだ。簡単に言うと相手が「正味で」話しているから信頼するということになるのだ。もちろん相手の言葉や行動をきっちり見て、その結果信頼するのであるが、そこで「正味で」と言ってしまう。これは実は手抜きではないかと思う。食べ物の描写もそうだ。美味しそうなものは出てくるのだが、ただ単にそれが「すごくおいしい」で終わってしまう。これはもったいない。美味しそうな食べ物なのにいつもどこか違和感がある。もう少し表現を磨いたらいいのにと思ってしまうのだ。
これはたぶん著者の不得意分野なのだろう。
ストーリーはわくわくしながら一気に読み進めてしまうようなパワーがある。読後感もいい。だからちょっとした瑕はいいのだけれど。
この牡丹酒、深川黄表紙掛取り帖の(二)ということになっているのだが、これだけの大仕事をやってのけてしまったら次が続かないのではないかと思ってしまう。実際、この本の終わり方の余韻は続きを作りにくいと思う。
着想はいいし、もっといろんなエピソードを読みたいとは思うんだけど、さらに面白いというのが出てくるかどうか。なかなか複雑な気分の作品であった。
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