原典を読んだことがあるのは「山月記」と「走れメロス」だけだった。だが、どの短編も原典をしらなくても十分に楽しめた。もちろん原典を知って読めばもっと楽しめるのは間違いない。
走れメロスはたぶん誰でも一度は読んだことがあるだろう。だからまずこれを新釈で読むのがおすすめかもしれない。読みながら何度も笑って(失笑して)しまうこと請け合いである。
だが、僕が好きなのは「藪の中」と「桜の森の満開の下」だった。原典を読んでみたくなって読んでみたら、どちらも新釈のほうがいいと思った。
「藪の中」は思い浮かぶ情景の美しさの点で新釈のほうが気に入っている。「桜の森の満開の下」の原典は桜の情景のほかは凄惨すぎる感じがして少し辛かった。どちらも原典が表現しているココロの部分を新釈ではうまく生かし、ずっと読みやすくしているような気がするのだ。
「百物語」はかなり原典に忠実に描かれているようで、森見らしさが他の作品より少ないように感じる。江戸の風情の残る東京の姿と、謎の催主への興味の表現の細やかさの点で原典が気に入った。
原典が読みたくなる新釈。もっといろいろ書いてほしいと思った。
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